3  がんの転移の真相

● 体内の「株化類似現象」が転移の正体
 ◆ がん細胞の培養継続から見えた真実

がん組織を体から切り取ってシャーレの中で最初に培養することを「初代培養」という。 これがうまくいって細胞が分裂を続け、シャーレの底面を細胞が埋め尽くすようになると トリプシンを用いて細胞を個々ばらばらにして、いくつかのシャーレに移し替えることが できる。これを「継代培養」という。

▼個々バラバラになったがん細胞が増殖力を獲得
個々バラバラになったがん細胞が増殖力を獲得
▼単一細胞から増殖したがん細胞のコロニー
単一細胞から増殖したがん細胞のコロニー

 ◆ コロニー形成率の大幅アップが転移の前夜

継代にともなって培地に播かれた個々バラバラにされた細胞がコロニーを つくることができるようになる最低条件は、細胞自身が単独で生き残れる能力を 獲得することである。一度培養液中で単独の自己増殖ができるようになれば、 1個から増えていったコロニーが形成される。
私の扱った細胞の場合、数%〜90%もの高率に及ぶものまであり、シャーレに増殖した コロニーの染色標本(右上写真)を見ても分かるように、同一の培養条件下で増殖した がん細胞でも、増殖してきたコロニーの大きさは千差万別だ。
1つのコロニーを取り出してまた別のところに移し替えたところで、たちまちコロニーを 形成していく。このがん細胞の場合、株細胞といえども、その中身はいろいろな 増殖能力をもつ細胞集団の寄せ集めあることが染色体数分布からわかった。

● 転移はがんが「もう一度がん化」すること!?

「エーッ」と思うかもしれません。でも真実だから仕方ありません。 体内でがん細胞が独立性を獲得することが転移のスタートラインで あることは間違いない。この能力は、体内では、がん細胞が分裂して 腫瘍を形づくるのとほとんど同時にやってくることもあるが、 通常はそのがんが体内環境にますます適応していく中で、個々のがん 細胞が独立性という自己改革を遂げつつ初めて得られるとみたほうが 分かりやすい。
転移細胞へ「昇格」しやすいおあつらえ向きのときというのは、体内が 顆粒球漬けになっていて、活性酸素に満ちあふれている状況下の時である。 転移がんとは分かりやすく端的にいうと、がんがもう一度がん化したのに 等しいほど、悪質度においてハイレベルのがんになったということだ。
そのがんが目詰まりを起こした臓器の毛細血管に引っ掛かって、 そこで分裂を開始する。次頁の図のように、活性酸素は赤血球同士を 癒着させ毛細血管の目づまりを起こす。そういうところには、 複数のがん細胞が付着することも十分考えられる。そうすればさらに 分裂しやすくなる。これが転移の病巣の始まりだ。

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